命の選別が現実となる時代に問う、遺伝子とデザイナーベビーの倫理。障がいや個性を科学で操ることは幸福か、それとも傲慢か。親の願いと生命の尊厳が交錯する境界線を、最新技術と哲学の視点から深く見つめ直す。

愛するわが子に、少しでも健康で、少しでも優れた才能を持って生まれてきてほしい。そう願うのは親として当然の愛情かもしれません。しかし、その願いが「科学の力」によって現実のものとなるとき、私たちはある恐ろしい深淵に足を踏み入れることになります。「子どもを選別するということ:遺伝子・障碍・デザイナーベビー」は、私たちが目を逸らしてきた、命の根源に関わる究極の倫理的問いを突きつけてきます。

現代の医療技術は、着床前の診断や遺伝子解析によって、生まれてくる前に子どもの特徴を知り、選ぶことを可能にしつつあります。病のリスクを排除し、外見や知能を望み通りにデザインする。一見すると「理想の未来」のように思えるその光景の裏側には、ある種の命を「不完全」として切り捨て、人間の存在を数値でランク付けする冷酷な思想が潜んでいます。本書は、科学の進歩がもたらす恩恵と、それが引き起こす「命の選別」という残酷な現実を、多角的な視点から浮き彫りにします。

実際に本書を読み進めていく中で、私は何度も胸が締め付けられるような葛藤を覚えました。障がいを持って生まれてくることの苦しみを知る親の切実な思いと、どんな命もそのままで尊いとする倫理観。どちらが正しいと一言で片付けることはできません。しかし、技術が進歩し「選べる」ようになったことで、逆に「選ばなかったこと」への責任を問われる社会の息苦しさが、緻密な論理で描き出されています。この視点に触れたとき、読者は単なる科学の進歩の話ではなく、自分自身の「人間観」が問われていることに気づくはずです。

もしも、すべての親が「完璧な子ども」だけを選ぶようになったとしたら、この世界から多様性は失われ、規格に合わない存在を許容しない、不寛容で冷たい社会が完成してしまうのではないでしょうか。デザイナーベビーという概念は、一見個人の自由に見えますが、それは同時に「選ばれなかった命」を否定する差別的な構造を強化する危険を孕んでいます。本書が提示する数々の事例や倫理的ジレンマは、私たちが守るべき「命の尊厳」とは何かを、魂の奥底から問い直させます。

筆者が特に感銘を受けたのは、著者が単に科学を否定するのではなく、技術と向き合う人間の「心」の在り方を丁寧に説いている点です。私たちは技術という強力な力を手に入れたからこそ、それを使う側の倫理観を研ぎ澄まさなければなりません。効率や完璧さを追い求めるあまり、不完全さの中に宿る美しさや、予期せぬ困難を共に乗り越えることで生まれる深い愛を見失ってはならない。読み終えた後、あなたの心には、これまでとは違う、重層的な命への眼差しが宿っているはずです。

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ナカニシヤ出版
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これは遠い未来の話ではなく、今この瞬間に私たちが直面している現実です。命をデザインするという誘惑に、私たちはどう向き合うべきなのか。効率化が進む社会で、弱さを抱えた命の価値をどう守り抜くのか。本書は、正解のない迷路を歩む私たちにとって、決して見失ってはならない倫理の羅針盤となります。命を「選ぶ」ことの重さと、選ばずに「受け入れる」ことの豊かさ。その両面を深く知ることで、初めて私たちは、真の意味で人間らしい未来を語り始めることができるのです。